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観た映画の感想が綴られてます。ゆったり、更新。
IN HER SKIN イン・ハー・スキン
2012年07月13日 (金) | 編集 |
I AM YOU・・・ 私は変わらなきゃ

イン・ハー・スキン_Poster

解説:実際に起こった少女失踪事件を元に描いたサイコスリラー。15歳の少女・レイチェルが謎の失踪を遂げる。彼女のボーイフレンドは「レイチェルが稼げる仕事の話をしていた」と言うのだが…。

実在事件をベースに作られてる作品はよくあるが、
これは、闇を覗き込んでいくようなリアルな恐怖がある。

バーバー家の、目の中にいれても痛くないっていう15歳の娘レイチェルが失踪。溺愛する両親は、すぐに警察に駆け込むが、よくある家出でしょう、と、まったく取りあってくれない。ボーイフレンドのマニーが聞いた「稼げる仕事よ、心配しないで」とは、なになのか。

イン・ハー・スキン_ミランダ・オットー_ガイ・ピアース

話は、遡って4年前。
父は家に寄り付かず、母は自分を責め泣いてばかり、という家庭があった。
その家には、キャロラインという、
私は、デブで、ブス。誰からも愛されない。
と狂乱するコンプックスの塊のような引きこもりの娘がいた。

そのキャロラインのお向かいに住んでいたのが、バーバー家だった。
自分の家とはまったく違う優しい両親に見守られ、
私を見て、と、くるくると踊るレイチェルの姿は、美しく理想的だった。

私は、変わる。自由奔放な私に。
支離滅裂な考えにキャロラインは支配され起こってしまった事件だという。

イン・ハー・スキン_ルース・ブラッドリー

キャロラインの父は、バリバリの実業家みたいな人で、
私の期待どうりの娘になっておくれ、巻き毛ちゃん、と
いつもプレッシャーを娘にかけてたみたいなんですね。
家を逃げ出してしまった父、嘆いてばかりの母、
少女時代の家庭内に問題はあったことはあったと思う。
大きくなり、父の電話会社で職をもらい、住むところも与えてもらい、面倒を見てくれる上司もついている。キャロラインは、ずいぶん恵まれてるのに。彼女の心が求めるものは、そういうものではなかったといっても。


私は、あなた。
人は、他者の中に自分を見る。

イン・ハー・スキン_ケイト・ベル

妬みの標的になってしまったのが、
偶然、見かけたレイチェルだった。
さらに美しくなったレイチェルは、彼から家族から、なお愛されていた。
この女は幸せで、自分ばっかり不幸。
自分への苛立ちと、レイチェルはなんの関係もない。
なぜ、我が娘が殺されなければいけないのか、レイチェルのご遺族の方は、やりきれない想いが永遠に続いてると思います。

キャロライン役のルース・ブラッドリーという女優さんが、狂気の演技で、リアルな恐ろしさを出していたと思います。急に、にまっと笑ったり、わめいたり、情緒不安定な、彼女の落ち着きのなさが、観てて不安をかきたててくれてます。
猟奇殺人事件でないからこそ恐ろしく、奥にある遺族の方の憤慨や悲しみも迫ってくる。キャロラインの精神を中心に描ききっていく、という作りがよかった思います。

IN HER SKIN イン・ハー・スキン 2009年【豪】劇場未公開108分
原題:I AM YOU(IN HER SKIN)
監督・脚本:シモーヌ・ノース 
出演:ミランダ・オットー、ガイ・ピアース、ルース・ブラッドリー、サム・ニール、ケイト・ベル
★★★★☆(4.0)
IN HER SKIN/イン・ハー・スキン [DVD]

バビロンの陽光
2012年07月09日 (月) | 編集 |
バグダッド出身のムハンマド・アル=ダラージ監督がメガホンを取り、
度重なる戦争で疲弊したイラクの今を映し出した作品。

バビロンの陽光_写真1
ベルリン国際映画祭アムネスティ賞・平和賞を受賞。
詳しくは「バビロンの陽光公式サイト」をごらんください。

解説:2003年、イラク北部クルド人地区。フセイン政権の崩壊から3週間後、戦地に出向いたまま戻らない息子を探すため、老いた母は旅に出た。12歳の孫アーメッドを連れて。古都バビロンまで900キロに及ぶ過酷な旅を続ける家族の姿を通じて、度重なる戦争で疲弊したイラクの今を映し出す。現地で抜てきされた主要キャストたちの魂の好演、そして衝撃のラストが、観る者の胸に深く突き刺さる。

キャステングは、現地の方を使っていて、行方不明の息子を探し続けている祖母役には、実際にそのような経験を持たれている方。12歳の孫アーメッドには、グルド人でアラビア語をしゃべる子が選ばれています。

寡黙であまり語らず、固い表情の祖母。
父が残した縦笛を握りしめる孫。
この二人の旅を追う、ドキュメンタリーのような雰囲気のある映画です。

これから、どういうところへ向かおうとしてるのかわからない孫アーメッドは、おばあちゃんに、連れられていってるだけで、疲れた、もう帰ろうよ、といった感じで始まっていきます。
それが次第に、混沌する街、父が収監されている刑務所に近づくにつれ、
アーメッドの様子が変わってきて、恐ろしさを、肌で感じていってるようです。
刑務所に父の姿はなく、集団墓地を探せ、と言われます。
そこに行くことを拒否する祖母は、
病院も訪ねていきますが、息子の姿はありません。

集団墓地というのは、まるで、発掘現場のように、
埋められた多く遺体が、次々と発見されている場所です。
家族の消息を求める多くの女性が、点々とする集団墓地を尋ね歩いています。
この場に立ったアーメッド少年に、
僕がおばあちゃんを連れていく!という強い気持ちが生まれてきます。


憔悴してしまった祖母は、古都バビロンで、その旅を終えることになります。ここで、祖母は、探し求めた息子に会うことができた、と思いたいです。ひとりぼっちになってしまったアーメッドの旅は、まだ終わりません。これから先も、つらい過酷な旅は続いていきます。

ほぼ、セリフも音楽もない映画で、きれいな笛の音も奏でられません。
でも、過酷な現実を体験したからこそ、未来を乗り越えていける、そんな希望を感じさせる作品だったと思います。

バビロンの陽光 Son of Babylon 2010年【イラク/イギリス/フランス/オランダ/パレスチナ/アラブ首長国連邦/エジプト】90分
監督:モハメド・アルダラジー
出演:ヤッセル・タリーブ(アーメッド)、シャーザード・フセイン(祖母)、バシール・アルマジド(ムサ)
★★★★☆(4.0)
バビロンの陽光 [DVD]
バビロンの陽光_ポスター

エッセンシャル・キリング
2012年06月24日 (日) | 編集 |
ただ、そこに大自然と男が居るだけ、
シンプルに描ききった大胆な作品ですね。

エッセンシャル・キリング写真1
解説:『アンナと過ごした4日間』『早春』のイエジー・スコリモフスキ監督が、イスラエル、ポーランド、ノルウェーの3カ国にまたがるロケーション撮影を敢行した一大スペクタル巨篇。極限まで削ぎ落とした大胆な構成、未だかつて見たことのないサバイバル・アクションの連続で観る者を圧倒する。第67回ヴェネチア国際映画祭で最優秀男優賞を受賞したヴィンセント・ギャロが、米軍に追われるアラブ人兵士に扮しキャリア最高の名演技を披露。83分ただ逃げ回るだ けの男を顔面の筋肉と鍛え上げた肉体のみで表現するさまは前代見聞のパフォーマンスと言える。

アフガニスタンで米兵を殺害、米軍によって拘束された男ムハンマド。
収容所で激しい拷問を受けた後、軍用機で別の場所へと移送される。途中、護送車に事故が起こり、その混乱に乗じて彼は脱出。しかし、そこは右も左も分からない雪深い森の中。

極寒の大自然の中を、
ひとりの男が、ひたすら逃げる、逃げる。
余計な場面はいっさい排除して、
この男の生きるための行動だけに、絞りこんで観せていく。
理由などいらない、観て感じるだけだ。

エッセンシャル・キリング写真2

エッセンシャル・キリング写真4の2

エッセンシャル・キリング写真3


序盤に、彼は、アメリカ軍ヘリに爆撃され、耳が一時的に聴こえない状態となる。それから先、彼は、余計な雑音をすべて遮断し、自分の世界を進んで、しゃべらない。言葉は持たず、叫びや悲鳴、肉体の声を発するだけだ。自分がどこにいるのか、どこに行くのかもわからない。ただ、生きるためだけの行動をとっていく。最後に、耳の不自由な女性に助けられられるが、その時もやりとりだけ。あらがうことをやめた彼は、馬に身をまかせ揺られ続けて・・・。最後、この人は、すべての生き物と等しく、土に帰っていった。

個性的な作品で、インパクトありましたね。

あと、参考程度に。
ポーランドの奇才と呼ばれ続けたイエジー・スコリモフスキ監督インタビュー
http://www.outsideintokyo.jp/j/interview/jerzyskolimowski/index2.html

エッセンシャル・キリング/ESSENTIAL KILLING 
2011年【ポーランド・ノルウェー・アイルランド・ハンガリー】83分
監督・製作・脚本:イエジー・スコリモフスキ
出演:ヴィンセント・ギャロ、エマニュエル・セニエ
★★★★☆(4.0)
2010年ヴェネチア国際映画祭で、審査員特別賞・主演男優賞のW受賞
エッセンシャル・キリング [DVD]
エッセンシャル・キリングポスター

灼熱の魂
2012年06月21日 (木) | 編集 |
恐ろしいほど重いものがありながらも、
映像作品として、よく出来てるな、と思うなぁ。
ミステリー物語としても堪能できる、力作ですね。

灼熱の魂_Poster

解説:レバノン出身の劇作家ワジディ・ムアワッドの戯曲 「Incendies」を、「渦」のドゥニ・ヴィルヌーヴ監督が映画化。民族や宗派間の抗争、社会と人間の不寛容がもたらす血塗られた歴史を背景に、その理不尽な暴力の渦中にのみ込まれていったヒロインの魂の旅を描く。「パラダイス・ナウ」のベルギー人女優ルブナ・アザバルが主演女優賞に輝いたのを始め、カナダ版アカデミー賞に当たるジニー賞で8部門を制覇、米国アカデミー賞外国語映画賞にもノミネートされた魂を揺さぶる作品である。

ずっと世間に背を向けるように生きてきた母ナワル(ルブナ・アザバル)が、亡くなった。双子の姉弟であるジャンヌ(メリッサ・ デゾルモー=プーラン)とシモン(マキシム・ゴーデット)にも心を開くことなく。

灼熱の魂_Photo1

風変わりな母だったみたいですね。
そんな母は、謎めいた遺言と二通の手紙を残していた。
二通の手紙。それは、ジャンヌとシモンが存在すら知らされていなかった兄と父親に宛てられていた。その兄と父親を探し出し手紙を渡したのち、双子に宛てられた手紙を開封せよ、というものだった。

奇妙な遺言に導かれ、この双子が知る事になるのは、
壮絶としかいいようのない母ナワルの半生、驚愕するような真実であった。

観終わって、
こんなこと、とても受け止めきれない、
愕然とし、突き落とされたような気持ちになりました。
双子にとっては、途中の段階で、おぞましく、震えがきそうなことを知ったうえ、これですから、もう、どうしようかと思いました。


以下、ネタばれで書きますので、未見の方は、注意ください。

灼熱の魂_Photo2
この瞬間、もう我が子は生きていない、
襲いかかる憎しみに、彼女は支配されてしまったんだろうなぁ。

憎しみの戦士、歌う女と呼ばれていた母。母は、愛する子供のために、自分の半生、出生の秘密を、地獄までも抱えていくという強い意志を持っていたはずだ。あの日、母に何が起こったのか、なぜ、母はこの真実を伝えようと決めたのか、
再び、それをたどっていくうちに、
次第に、心が穏やかになっていくという感じがありました。
観終わって、全停止するようなラスト。ぐちゃぐちゃになったあと、再び、自分の中で、ゆっくりと物語が動き始めるかのような作品ですね。大爆発の場面、双子が全力で泳ぐ場面、水を感じさせるプールの場面など、インスピレーション的な画面の啓示は印象的。

灼熱の魂_Photo3

差出人、娼婦72番から、父親宛の手紙に、
“じきにあなたは沈黙する”とある。

差出人、収容番号72番から、息子宛の手紙に、
“何があってもあなたを愛し続ける”とある。

そして、双子宛には、
“一緒にいることが大事”と書かれている。

母ナワルは、子供達といっしょにいれなかったことを悔い、憎しみをすべて自分が引き受け、炎に焼かれたのだと思う。心からの愛だけを残して。


子たちが、母の苦しみ、真の母の想い、を知り、自分の生まれてきた意味を知るのは、よかったことと思います。が、これは、あまりにも重い。どう生きていったらいいのか、重圧に押しつぶされそうになるかもしれない。でも、私は、母ナワルの子。強靭な愛と意志が、子供達を支えてくれると信じたいです。

灼熱の魂 INCENDIES 2010年【カナダ/フランス】131分
監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ 脚本:ドゥニ・ヴィルヌーヴ
原作戯曲:ワジディ・ムアワッド
出演:ルブナ・アザバル(ナワル・マルワン)、メリッサ・デゾルモー=プーラン(ジャンヌ・マルワン)、マキシム・ゴーデット(シモン・マルワン)、レミー・ジラール(公証人ジャン・ルベル)
★★★★★
灼熱の魂 [DVD]

赤い珊瑚礁 オープン・ウォーター
2012年05月22日 (火) | 編集 |
ワニの次は、サメ!
潜むワニに恐怖する「ブラック・ウォーター」を手がけたアンドリュー・トラウキ監督の作品で、舞台は、同じく、オーストラリアです。

赤い珊瑚礁オープン・ウォーター写真1
ストーリー:グレートバリアリーフ在住のルーク(ダミアン・ウォルシュ=ハウリング)は、小型船舶の配送業を営んでいた。そこに友人マット(ガイトン・グラントリー)とその恋人スージー(エイドリアン・ピカリング)、そしてマットの妹ケイト(ゾーイ・ネイラー)がバカンスにやって来る。彼らは穴場スポットでクルーズとダイビング楽しむが……。

ジョーズみたいな、大鮫は、襲ってきませんよ(^^)
リアルな海の恐怖を描く〈オープン・ウォーターシリーズ〉と、されています。

ヨットが座礁し、転覆。
このまま、船上で発見されるのを待つか、
それとも、島のあるだろう方向へと泳いでみるか、
彼らに決断が迫られる。

妹ケイトは、海の恐さをよく知っているからだろうか。
船に残ると主張するのだが・・・
潮の流れにまかせて、島に、泳ぎ着く保証はまったくないし、サメは、自分より大きなものを襲ってこないから、船にいた方が安全なのかもしれない。それとも、過去にいやな体験でもあるのか。

やたら、わめき怯えるケイトの、過去のいきさつなども描かれていくのかな、と思いきや、そういうのはなかった。ひたすら、静かな海の恐怖。一人、また一人と、サメの餌食になっていくだけなので、ちょっと単調でしたね。

(ネタばれ)
最後、ホラー映画みたいに、主人公女性が生き延びるが、
助かって、ほっ、というわけではない。
こんな岩場に、一人だけ、取り残されたら心細いです。
このあとのことを想像すると、それが、一番、恐かった。

赤い珊瑚礁 オープン・ウォーター THE REEF 2010年【豪】88分
監督・製作・脚本: アンドリュー・トラウキ
出演:ダミアン・ウォルシュ=ハウリング、ゾーイ・ネイラー、ガイトン・グラントリー、エイドリアン・ピカリング、キーラン・ダーシー=スミス
★★★☆☆(3.0)
赤い珊瑚礁 オープン・ウォーター [DVD]
赤い珊瑚礁 オープン・ウォーターDVD