2010年09月16日 (木) | 編集 |

「私だけ置いていかんで!」
雨の中、ぽつんと置かれた光代の自転車。
国道沿いの紳士服売り場に勤める光代の前を、
車が人が、通りすぎていく。
ただ、それを見送っていくだけの毎日。
孤独な光代(深津絵里)の移ろい流れてゆく感情が、うまく表現されていく……

解説:吉田修一の同名小説を李相日監督が原作の重厚な世界観をそのままに映像化。悪意にまみれた現代社会の中で、ひとは何にすがって生きれば良いのか。ある女性保険外交員が殺される。殺した男と愛した女。引き裂かれた家族。さまざまな視点から事件の真相が明らかになるにつれ、観客はある疑問にたどりつく、いったい誰が本当の“悪人”なのか。
原作は、たくさんの登場人物のエピソードの集合で、まったく当たりさわりのない人物の、一瞬の気持ち、一瞬のひと言が、数多く存在してます。ここを通り抜けて、二人の逃避行に入っていく物語です。
遠くに見える灯台と、その光に照らし出される人々の感情といったイメージで、素晴らしかったです。光が去ってしまうように、場面と場面の間は、暗転。人物や風景、さまざまなシーンをつなぎながら、瞬間、見え、置き去られていく、その人の影の部分をも、映し出していきます。

ちっ
殺された佳乃の死体が発見されたシーンのあとに、
ガラガラとくずれおちる解体現場の家。
そこで働いているのが、無表情な祐一で、どきっとします。
誰もかれもが、自分勝手。
空白で脆い。
人をさげすむことによって自分を保とうとする佳乃や増尾、
裕一が、人を殺してしまったのは、自分への恐怖を振り払うため。
光代も、自首しようとする祐一を、孤独に戻る恐怖から、ひきとめてしまう。
彼女が、クラクションを鳴らすのが、印象的ですね。
私の声を聞いて欲しい、という、光代の叫びのように、聞こえる。

赤信号は出るけど止まりたくない
ただ、灯台の光を目指したかった。
そこに行けば、何かがあるような気がした光代で、
自分の思いをとげるため、祐一をも巻き込んでいく。
お互いに確かめ合うようなベッドシーンを経て、
灯台まで、たどり着く様が、情感的で、たいへん自然な流れ。
後半、樹木希林や柄本明、ベテラン俳優さんの演技が効いてきますね。
相手のことを想うからこその強さを見せてくる。
今は、もう1分1秒でも長く、この時を過ごそうとする二人。
裕一がみせる最後の決断が、なんともいえない。

しっかり巻かれる房江のスカーフ
エンドロールに出る俳優名が、
左から右へ灯台の明かりが当たったように照らされます、凝ってますね。
悪人 2010年【日】139分(パンフ600円)
監督:李相日 脚本:吉田修一/李相日 悪人 シナリオ版 (朝日文庫)
原作:吉田修一 悪人(上) (朝日文庫) 悪人(下) (朝日文庫)
音楽:久石譲 主題歌:福原美穂『Your Story』 悪人(サントラ)
出演:妻夫木聡(清水祐一)/深津絵里(馬込光代)/岡田将生(増尾圭吾)/満島ひかり(石橋佳乃)/樹木希林(清水房江)/柄本明(石橋佳男)
★★★★★ (T_T) よかった

「あの人は悪人だったんですよね?」
映像として、顔で終わっていくのは、力強いです。光代が、花を供えることができなかったのは、亡くなった佳乃の顔が、はっきり見えたからだと思う。逃亡中、一人の女性が亡くなったという現実を忘れ去ろうとしていた自分。そして、祐一は、まぎれもなく人を殺したということを受け止めるんだと思います。
誰か?という曖昧な言葉でなく、人の顔を具体的に描いて、感じてみるというなんだろう。
◎関連記事 →原作 本:悪人 吉田修一 →挿絵 束芋『断面の世代』
◎深津絵里主演 →女の子ものがたり
◎満島ひかり主演 →愛のむきだし →プライド
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