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ノルウェイの森 Norwegian Wood
2010年12月14日 (火) | 編集 |
森は深い。原作と同じく、さまよってしまう。

ノルウェイの森_Norwegian Wood_Poster

高校時代の唯一の親友キズキを突然の自殺で喪ったワタナベは、新しい生活を求め東京の大学に行く。そこでキズキの恋人だった直子と偶然再会。同じ悲しみを背負った二人は、大切なものを喪った者同士付き合いを深めていく。しかし付き合いを深めるほど、次第に直子の持つ喪失感は深くなり、20歳になった直子は京都の療養所に入院することに。そんな時にワタナベは大学で、春を迎えて世界に飛び出したばかりの小動物のように瑞々しい女の子・緑と出会う――。

原作は、1987年に発表され、国内での累計発行部数870万部を誇る村上春樹の同名小説。トラン・アン・ユン監督がメガホンを取る。

2回目も観てきました。たいへん、素晴らしかったです。
楽しみにしてたので、1度目は、ちょっと、気合いいれて観すぎたかな。美しい映像とは思ったけど、原作との違いの部分に迷ってしまった。これは、監督さんが、村上春樹の文章から、なにを想像し、どういう刺激を受けたか、この映像作品との対話をしていったほうが面白いですね。2回目は、落ち着いて観れるせいか、たっぷりとこの世界の中に入り、堪能できました。

原作は、出てくる言葉まわしが、すごく面白いんですよ。えっ、なんでこんな言葉が出てくるんだろうという驚きで、どんどん、刺激されていってしまう印象がある。
映像は、発せられる音のニュアンスを、すごく大事にされてると思います。外国人監督さんなので、言語の理解という考え方じゃないと思う。登場人物は、乾ききったように、抑揚なくセリフをしゃべります。直子だったら、直子という音が、登場人物から出てきてるイメージに感じる。人物も、ひっくるめ、情景映像となった詩が、音とともに、体の中にはいってくる感じですね。
終盤に向かい、季節が冬に向かっていくところも素敵。冬のシンと張りつめた空気に、感覚が、研ぎすまされていくみたいな雰囲気を味わえます。

ノルウェイの森_Norwegian Wood_Photo2

映画は、高校時代の三人から始まり、死というものが、色濃く出てます。キズキの死をきっかけに、ばらばらになった三人。幼き頃からキズキと時間を共有してきた直子は、自分自身が欠落したように感じるだろうと思う。人間の感情を置き去りにして、季節は、流れさっていきます。肉体と感情が、離れていってしまうように感じる直子は、生と死が息づく深い森を彷徨い始める。

ワタナベくんと直子の二十歳の誕生日の交わり。生への渇望の行為として撮ってあるんだと思います。二人の中には、キズキは存在してると思う。直子は、自分の身体が求めるものが、キズキを葬り去ろうとしてるということに気づくのかな。

ワタナベくんに、問いかけるように現れるのが、緑。水原希子は、異色なものを放ってるし、声やしゃべり方も、パキッとしてていい。このキャステングは、良かったですね。サングラスをかけて登場する彼女は、内面に抱える悲しみを、表面には見せない。彼女自体が、本編におとす光のようなイメージで、彼女がいなかったら、暗い映画になりそう。

ハツミさんが、ワタナベくんを問いつめる。ワタナベくんは、直子を決して見捨ず離れない、という愛。ワタナベくんの気持ちに応えられない直子は、苦しんでいくことになる。レイコさんは、直子から受け取ったものを、ワタナベくんに渡すために、来たような気がする。残された魂の受け渡しと再出発の儀式のような感じでしたね。ワタナベくん、直子、レイコさんの三人が、鳥のさえずりの聞こえる春の中に立つシーンになる。

緑に、愛してる、とワタナベくんは伝える。緑の表情が、柔らかくなって、今、どこにいるの?と訊く。ワタナベくんの立つ位置が、変わったのだ。僕は今どこにいるんだろう? 感情の渦の中に、人は立ち止まることはできず、生きていくしかない。季節は、めぐってゆく。

ノルウェイの森_Norwegian Wood_Photo1

これは、小説の映画化ではないと思う。トラン・アン・ユン監督が、感性で受けたものを、映像として表現したものだ。どっちかいうと、死と苦しみの森。冒頭の“構わないよ、僕もおしゃべりな方じゃないし”とうセリフ、直子のあとを追うように歩き始めるワタナベくんの姿、墓地を通っていく描写からして恐い。死者は、語ってくれない。
でも、作品の中に「ノルウェイの森」の感覚は、しっかり生きていると思いますよ。さらに、深くなったものを観せてくれたように感じます。日本人俳優、日本ロケに、こだわって挑んでくれたことも、うれしいですよね。

撮影には『空気人形』などを手掛けたアジアの巨匠マーク・リー・ピンビン。音楽にはカリスマロックバンド・レディオヘッドのギタリスト、ジョニー・グリーンウッドが参加しています。

ノルウェイの森 Norwegian Wood 2010年【日】133分
監督・脚本:トラン・アン・ユン『青いパパイヤの香り』『夏至』 
原作:村上春樹 ノルウェイの森 上 (講談社文庫) ノルウェイの森 下 (講談社文庫)
出演:松山ケンイチ(ワタナベ)、菊地凛子(直子)、水原希子(緑)、霧島れいか(レイコ)、初音映莉子(ハツミ)、高良健吾(キズキ)、玉山鉄二(永沢)
★★★★★ 
ノルウェイの森 オリジナル・サウンドトラック

※レイコ役=霧島れいか、ハツミ=初音映莉子、なんとなく、名前の響きが似てる人が選ばれてる。(^▽^)
※12/16、フリーパスポートで、3回目も鑑賞。観れば観るほど良くなってくる。
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コメント
この記事へのコメント
CMよりブログ友達の記事の方が雄弁な時が多いですよね。
kinoさん、お久しぶりです―。
大学合格して時間ができて、いろいろと映画を観ようと思ったんですが、なんかみんな『ノルウェイの森』の評価が高いのでおろどきました。
最初はパス予定だったんですが、えー、です。二回もご覧になったんですね^^!
こちらの映画館でも公開しているようなので、時間が合えば(冬期講習は出席せねばならないのです)観ようと思います。
2010/12/18(土) 16:51:47 | URL | 茶栗鼠 #-[ 編集]
茶栗鼠さん、お久しぶり。
茶栗鼠さん、こんにちは。
大学合格されたんですね。おめでとうございます。
これは、映像や音という言語で語ってくる詩のような感じがします。
監督さんが、原作を読みとった気持ちを、
感覚的に、こっちに伝えようとしてきてる作品なので、
原作を読まれてから、観ることを、おすすめします。
2010/12/18(土) 18:30:34 | URL | kino #Kyeye.Gc[ 編集]
はじめまして^^
TBありがとうございます。
実は私も2回鑑賞しました。 よかったですよね。

トラン・アン・ユン監督でしか、成しえない世界でしたね。
原作の空気感を保ちつつも、彼独特の映像も観ることができ、大変満足しています。
2010/12/28(火) 12:34:37 | URL | rose_chocolat #ZBcm6ONk[ 編集]
コメントありがとうございます。
こんにちは!
2回目を見ると、また違った印象だったんじゃないでしょうか。私は、1度目は、原作を読んでるせいか、ストーリーを追いながら観てしまいました。

トラン・アン・ユン監督の感性を受け止めて、そこに刺激されていった方が、すごく楽しめる映画のように思います。たいへん満足できました。
2010/12/29(水) 02:29:27 | URL | kino #Kyeye.Gc[ 編集]
新ブログタイトル★
kinoさん、こんにちは!
ブログ名を変更されたんですね!
心機一転して再スタートって感じでしょうか?
こちらのリンク名も変更しておきますね。

ところで、私はこの原作があまり好きではなかったので、
映画もそれほど楽しめなかったんですが、
kinoさんはどう感じたのかなと思って覗いてみました。
とても刺激を受けて満足されたようで、
結局3回もご覧になったんですね~(゚o゚) 

ちょっとブツ切れな感じが雰囲気を壊しているように思えたんですが、
監督の感性が息づいている映像は良かったです。
特に季節によって緑や白に変化する森が美しかったですね。
2011/08/24(水) 16:34:27 | URL | YAN #9L.cY0cg[ 編集]
>YANさん、こんにちは!
コメントありがとうございます。
なかなか、更新できない状態で、お返事も、ものすごく遅れてます。
申し訳ありません。
この作品は、監督さんの感性、つまり、読んだ時の感覚みたいなもので、
監督さんが、どう感じたんだろう、みたいなものを
楽しんでいかないと、しんどい作品だと思います。
監督さんと対話していくみたいですごく面白かったです。
2011/09/01(木) 22:02:34 | URL | kino #Kyeye.Gc[ 編集]
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